コラム

フォーカスシステムズ事件 控訴審

係属機関・判決日

  • 東京高等裁判所
  • 平成24年3月22日


訴訟内容

平成18年9月、システムエンジニアの男性(死亡当時25歳)が大量飲酒をして急性アルコール中毒で死亡したのは、過労で精神疾患を発症していたことが原因として、遺族が勤務先だったソフトウエア会社のフォーカスシステムズ(東京)に1億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審。


事件の背景

  • 男性は、平成15年4月にシステムエンジニアとして入社。
  • 平成17年頃から月によっては残業が100時間を超すようになった。
  • 平成18年7月に部署異動があった。
  • 平成18年8月、この月の残業時間は130時間を超えていた。 
  • 平成18年9月、無断欠勤をして、さいたま市の自宅から京都市に向かい、鴨川沿いでウイスキー等を大量に飲み、急性アルコール中毒で死亡した。
  • 平成19年10月、中央労働基準監督署は労災認定をしていた。
  • 平成20年1月、原告は、1億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
  • 平成23年3月、一審判決では、被告に賠償金約5,960万円の支払いが命じられたが、その後、被告は判決を不服として控訴した。


判決

原告の勝訴。
控訴審では、一審判決と同様、配置転換や月100時間を超える時間外労働等により、心理的負荷が過度に増大したことでうつ病等を発症して大量飲酒したことが死亡の原因とし、会社の責任を認定した。但し、男性がブログの執筆等に時間を費やし、睡眠不足を解消する努力を怠ったことなどの過失相殺の割合を増やし、賠償金額を約4,380万円に減額した。


コメント

本件は、過労死をめぐる訴訟において、精神障害を原因とする急性アルコール中毒死で企業の法的責任を認めた極めて異例のケースである。過度の飲酒は、うつ病等精神障害による病的心理の下で起こったとされ、長時間労働の抑制など、会社が安全配慮義務を怠ったことがそもそもの精神障害の原因と判断された。
因みに、労災認定については、災害と業務の間に因果関係があったとするのみで、企業責任を認定したものではなく、労災保険給付では慰謝料等を含む全損害はカバーされないため、本件のように労災認定後に、労働者に対する安全配慮義務違反として企業責任を問い、労災保険給付の不足分を補うためにしばしば民事訴訟が起こされる。
なお、死亡による損害賠償請求額の大半を占める逸失利益については、死亡者が生存していれば稼ぐことができたであろう年収から、その者が支出するはずであった生活費分を控除し、労働能力喪失期間(死亡時年齢から勤続可能年齢とされる67歳までの年数)に応じたライプニッツ係数(※)を乗じて算出するのが一般的である。本人の過失が大きければその分減額されてしまうが、その金額は労災保険給付の額をはるかに上回るのがほとんどである。
例えば、本件の第一審判決は、賠償金額が約5,960万円であり、労災保険から給付される遺族補償年金前払一時金相当額(平均賃金日額相当額の1,000日分)につき損害賠償責任が免責されるが、死亡した男性の賃金日額が1万円(月給30万円)と仮定すると、遺族補償年金前払一時金相当額は1,000万円となり、労災保険給付ではとても賄いきれないことが分かるであろう。
安全配慮義務を疎かにしている企業は、多額の金銭リスクを背負っていることを肝に銘じる必要がある。


<逸失利益の計算例>
死亡した者の年収×{1-生活費控除率(0.3~0.5)}×ライプニッツ係数
年収700万円、39歳(労働能力喪失期間28年:67歳-39歳)、扶養家族2人の場合
7,000,000円×(1-0.3)×14.8981=73,000,690円

 

※ライプニッツ係数
中間利息控除率のことをいい、将来受け取るはずの金銭を前倒しで受けるために、得られた利益を控除するために使う係数。
例えば、10年後に1,000万円受け取る予定だったものを現在受け取ることになると、10年間で運用すれば金利が発生するため、受け取りすぎということになる。そこで、年5%の複利で運用した場合に、10年後に1,000万円になる現在価値を算定するために用いられるのがライプニッツ係数である。但し、算出は相当複雑なため、実務上、労働能力喪失期間に応じた係数の早見表が用いられている。