コラム

パワハラ公務災害事件 上告審

係属機関・判決日

  • 最高裁判所第2小法廷
  • 平成24年2月22日


訴訟内容

愛知県豊川市の職員だった男性が部署異動直後にうつ病を発症して自殺したのは「公務による労災」として、「公務外」とした地方公務員災害補償基金の認定取り消しを求めた訴訟で、第一審は棄却されたが、第二審は公務災害が認定された。第二審の結果による地方公務員災害補償基金の上告審。


事件の背景

  • 男性(原告の夫)は、2002年4月、部署異動により、同市児童課長に就任し、少子化対策や児童虐待、子育て支援等多岐に渡る業務を担当していた。
  • 上司である部長による男性の部下(第三者)への高圧的な言動が繰り返し行われていた。
  • 部長のパワーハラスメントは「このままでは自殺者が出る」と訴える職員もいるほど周知の事実であった。
  • 時間外労働については、異動直後の亡くなる前の月が32時間であった。
  • 2002年5月、男性はうつ病を発症し自殺した。
  • 2002年11月、原告(男性の妻)は、地方公務員災害補償基金へ公務災害認定の請求を行ったが、「公務外」とされた。
  • 2007年、原告は、名古屋地方裁判所に提訴(第一審)したが、棄却され、控訴した。
  • 2010年5月、控訴審判決で、名古屋高等裁判所は、一審判決を取り消し、公務災害と認定した(第二審)。


判決

原告の勝訴。
2012年2月、最高裁判所は、地方公務員災害補償基金の上告を棄却し、公務災害と認める二審判決が確定した。


コメント

本件は、公務災害であるか否かが問われた裁判であるが、自殺した男性本人ではなく、男性の部下である第三者に対するパワーハラスメントによって、男性が自分のこととして責任を感じてうつ病を発症し、自殺の一要因として認められたことは異例の判決といえる。また、時間外労働については、亡くなる前の月は公務災害の認定基準である月35時間を下回る32時間であったが、実態として児童課は難易度の高い仕事が多く、早急に対策が必要な事案が複数あり、公務の内容自体からくる心理的負担は相当なものであったとして、認定基準を下回り公務災害として認められた稀なケースである。
パワーハラスメントについては、法律上の概念としては未だ確立されてはいないため、現状では、民法や刑法等の一般法が適用されるが、厚生労働省は、2011年になり、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を組織し、パワーハラスメントの定義を「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えること又は職場環境を悪化させること」と定めた。
なお、パワーハラスメントに当たりうる行為類型としては、以下のものが挙げられる。(但し、当たりうる全ての行為を網羅するものではない)

pawahara.bmp

さらに、厚生労働省は、予防策や解決策を提示し、警鐘を鳴らしている。
予防策としては、組織トップによる予防へのメッセージ、実態の把握等があり、解決策としては、就業規則への規定化、教育研修の実施、相談窓口の設置等がある。
近年、パワーハラスメントに関する裁判は、増加傾向にあり、本判決によりさらにこの傾向が加速することが見込まれるため、企業として予防・解決のための措置を実施することは、今後ますます重要なリスクマネジメントとなる。なお、人事担当者や窓口担当者には、当事者の精神状態を把握したり、法律や社会規範に照らして適正にパワーハラスメントか否かを判断するスキルが求められるのは言うまでもない。