コラム

コーセーアールイー(第2)事件

係属機関・判決日

  • 福岡高等裁判所
  • 平成23年3月10日

訴訟内容

当時大学4年生の女性が、福岡の不動産会社コーセーアールイーから採用内々定を取り消されたことは、債務不履行又は不法行為にあたるとして、損害賠償請求した争いの控訴審。なお、請求金額は、賃金相当の逸失利益、慰謝料等で約380万円に及んだ。採用の内々定が労働契約の成立に当たるか否かが争点となった。

事件の背景

  • 平成20年5月30日:原告は、採用内々定の通知を受け、また、入社承諾書の提出を求められた。
  • 平成20年5月31日:原告は、採用日を平成21年4月1日とする入社承諾書に記名、押印し返送。また、同じく採用内々定を受けていた他の企業及び最終面接を受けていた企業に断りの連絡を入れ、就職活動は終了した。
  • 平成20年7月30日:被告は、原告を含む内々定者向けの説明会を行い、業績不振で様々な経営再建策を講じてはいたものの、当該内々定者らに対する採用は維持することを明言した。
  • 平成20年8月:リーマンショックといわれる世界的金融危機が起こり、被告取締役会において、内々定者に対する採用見直しを含めた経営再建策が検討されるようになった。
  • 平成20年9月25日:被告は、原告に対し、内定式は行わないが採用内定通知の授与を平成20年10月2日に被告の事務所で行うことを電話にて通知した。なお、この通知は、取締役会の意向を知らされていなかった社員によるものである。
  • 平成20年9月29日:短期決算の結果、業績予想を大幅に下方修正せざるをえなくなった被告は、「採用内々定の取り消しのご連絡」という文書を原告に送付。
  • 平成20年9月30日:原告は被告に電話で事情を確認したが、書面の通りと説明されただけで詳細説明は行われなかった。
  • 平成20年10月1日:原告は被告に対し抗議のメールを送付したが、被告からは一切連絡はなかった。その後、原告は就職先が決まらず、平成21年4月以降も就労していない。
  • 平成21年5月:原告は、労働審判により345万円の損害賠償を被告に請求、結果として100万円の支払いを命令が出される。被告はこれを不服とし民事訴訟に移行。
  • 平成22年6月:福岡地方裁判所の一審において、原告の約380万円の支払い請求に対し、被告に110万円の支払い命令が出される。被告はこれを不服とし控訴。

判決

原告の一部勝訴。被告に55万円の支払い命令。

コメント

内定とは、始期付き、解約権留保付きの労働契約と解釈されており、内定を取り消す場合は解雇に準じた取り扱いが求められる。この「始期付き」とは、実際の労務提供に対する賃金支払いという契約内容自体の実施は、将来の定められた時期からとするもので、「解約権留保付き」とは、一定の条件をクリアしない場合、例えば学校を卒業できなかった場合等は、労働契約を解除できるというものである。

内々定とは、「内定を出すこと」を正式な内定前に約束する行為である。なお、内々定の時点では、企業、内々定者の双方とも、労働契約を必ず締結するという意思まではないと解釈されており、これにより、内々定は労働契約の成立とまでは言えないと一般に考えられている。

本件は、内々定の取り消しが、始期付解約権留保付労働契約の解除に当たるか否かが争われたものであるが、裁判所は、「内々定は、正式な内定とは明らかにその性質が違い、正式な内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではない」と判断し、従来通り、内々定を始期付解約権留保付労働契約の成立として認めなかった。

ただし、本件は、本件直前のコーセーアールイー社に対する内々定取り消し判決(第1事件)とともに、内々定取り消しに至った経緯の説明不足や内定予定日直前の取り消しなどを信義則違反として、慰謝料の支払い命令というかたちで内々定の取り消しに救済を認めた初の事例という点で注目に値する。今後、内定者に対してもさらなる保護を求められる可能性もあり、企業おいては、業績予想を精緻に行い、今まで以上に慎重に採用計画を立てる必要があるであろう。